木育のすすめ… 北海道 旭川家具 編

自然と環境

食育という言葉に代表されるように、北海道で生まれた教育用語のひとつである「木育」。
自然素材である木をつかってものづくりをおこなう家具メーカーが日々取り組んでいる事業は、森が存在していて成立するものであり、環境に配慮した取り組みでなければ成立しえない事業ともいえます。
自然や森の恩恵を受けてつくられる木製家具という商品は、部材として素材の姿はとどめていますが、商品の姿になってしまうと“物”としてとらえてしまい、どこか森や木の存在が薄れてしまう。
そんな印象があるかもしれません。しかし、その商品に使用されている素材は世界のどこかで育ったものが、誰かの手で加工されたものなのです。
木製家具は表面的な姿に内包された『イミ』が織り交ざったものといえるでしょう。
当たり前のことですが、ものづくりの背景を知ることで自然と共存している自分たちの生活道具の存在を見直すきっかけになるのではないでしょうか。

「木育」とは

木育とは、食育という言葉に代表される教育用語のひとつです。北海道庁が主導しておこなった、木のふれあいにさまざまな可能性を見出す「木育推進プロジェクト」のなかで生まれた言葉で、「人びとが、木とふれあい、木に学び、木と生きる」という思いの込められた取り組みです。それは、子どもの頃から木を身近に使っていくことを通じて、人が森や木との関わりを主体的に考えられる豊かな心を育むことに繋がる取り組みです。木育の活動内容は多岐にわたります。家具は天然資源である木を原料にしていることもあり、エネルギー面や廃棄面に着目し、環境負荷の少ないものづくりを心掛ける必要があり、先進的な改善を心掛け、積極的に取り組んでいく必要があります。そんな木の家具を生み出す家具メーカーの取り組みを知ることも、「木育」のひとつの観点ではないでしょうか。

木を「知る」こと

木は、自然と人間の力で再生される循環資材です。森林資源をバランスよく使用し、持続可能な形にすることで “木の文化”と言うことができるでしょう。端的な見方をすると、自然豊かな森の木を伐採し、モノづくりを行うことは環境に良くないというイメージを持たれるかもしれません。長期的な見方をすると、木を伐らなければ森は育たず、さらに伐った後に植樹をするというサイクルを回すことで、木は生長過程で二酸化炭素を吸収し貯えます。森の持つ特性を知ることは、木を使うイミを知る(木への理解を深める)ことにつながります。

生きるために必要な水と家具の関係

森を新しくする

家具として使用する材料を確保するために、十分に育った大きな木を森から伐りだすことが必要になります。主に家具材として使用する木はナラやタモといった広葉樹です。大径木を伐採すると、伐ったあとには森に日が差し込むようになります。また、細い立木を間伐することで、残った木は大きく成長します。木を使う、山から伐りだすということは森を新しくするということなのです。

間伐の木

次の森を育てておく

長く使える家具をつくる一方で、その家具を使っている間に森を育てるサイクルを生み出す。木が育つスピードと、木を使うスピードを合わせること。そのためには長く使える家具にするため、人の生活に耐えうる強固な構造や長い年月を経ても飽きのこないデザインなど、家具に求められる項目は多岐にわたります。まずは何よりも家具づくりのために木を伐り出したあとは、木を植える。そして、ある程度育った森には手を加える。育てる木には枝打ちや下草刈りをし、そうでない木は間伐する。こういった手入れをすることで、家具として利用できる木を育て、次の家具になるための森を育てておくことも大切なものづくりの一環です。木を伐ることが森を育てることにつながる。相反した行為はどこか家庭菜園の野菜を育てるために雑草を抜く作業のように考えると、どこか納得できるかもしれません。

植樹祭の様子

「ここの木の家具・北海道プロジェクト」

木育という言葉は北海道が発祥で、森林資源豊富な北海道だからこそ生み出された言葉なのかもしれません。その北海道はもともと良質な家具材である広葉樹の生産地として知られています。しかし、80年代半ばまでは太く優良な広葉樹を欧米へ輸出していました。そのため「森林が枯渇している」「良い材料がどんどんなくなっている」と言われ続け、家具材となる木材が北海道では枯渇してきていると思われてきました。しかし、林野庁のデータからは意外な結論が読み取れます。日本の森林率は主要国世界第3位と高く、森林資源量もこの50年間に3倍近くにもなっています。それは、「日本の森林には木が有効に利用されずに余っている」という意味にほかなりません。ないと言われていた北海道の木材資源はここ数十年で着実に増えており、私たちが家具づくりに使う広葉樹も、日本有数の保有量になっていたのです。そして、北海道・旭川家具では、産地全体でふたたび地元北海道の木を使って家具をつくる取り組みをはじめました。それが、「ここの木の家具・北海道プロジェクト」です。『できることなら、近くの山から伐り出した木で、家具をつくりたい。』この言葉には木育に通じるフィロソフィーが感じられます。

ここの木の家具製品タグ

森に正直なものづくり

この取り組みにより生み出される家具は、森に正直に向き合っているといえるのではないでしょうか。“森から木を伐りだし、家具をつくる。“という、自然や森の恩恵を受けた素材を利用する“ものづくり”という行為。サイクルを持たせた取り組みであることを知ることで、日常でつかう木製家具にその背景が垣間見みえてくるではないでしょうか。あたりまえのことですが、一歩踏み込んだ知識を持ちうることで、また違った一面をその家具に感じることでしょう。

生み出されるモノのイミ、価値

北海道・旭川家具では定期的に工場見学を行っている家具メーカーがいくつかあります。中には実際に工場で作られている過程を動画で見ることができるところもあります。製品である“モノ”をただ見比べるだけではなく、育った場所の気候や環境によって異なる木のクセや特性を読み取る職人や、先端機械を操る職人の姿を見ることができるでしょう。また、それ以外にもシビアな目で木を削る職人、間接的にものづくりを支えるスタッフなどもいます。ものづくりに携わる人の存在をさまざまな場所で感じつつ、森から伐り出された木が家具へと変わる工程を工場見学では体験できます。こういった取り組みにちょっと参加してみるということも「木育」という観点において大事なことかもしれません。

イス製作の様子

家具を「創る」こと

また、実際に家具を作ってみるというワークショップに参加することも、ものづくり体験としての醍醐味のひとつでしょう。木をつかい、モノを創るということ。「ものづくり」の過程において、木を加工する際に様々な道具をつかい、自ら考えつつ様々な工程を体験することは、創造的な思考で問題を解決できる人間を育てるという木育の観点につながります。創る過程で直接木に触れることで、木の良さを直感的に、体感的に理解することができます。木を削る作業は、木の硬さ、削るときの感触や匂いなど、五感をとおして感じることから得られる貴重な木育体験です。ものづくり体験を経て自分が手をかけたものは、またひと味もふた味も違うイミを持ったアイテムになってくれるでしょう。

ワークショップの様子

さいごに、木を植えて、育てて、伐って、使って。というサイクルの中から、森から家具が生まれること。そして、創る過程において様々な道具を駆使し、形作られる家具。そして、その家具を永く使っていく。森から生まれる“家具”が大きな流れを経て、生活の一部を支える“道具”になるということを「木育」という観点から考えてみるのはいかがでしょうか。

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